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令和2事務年度金融行政方針からの示唆

金融庁から令和2事務年度金融行政方針(以下、行政方針)が公表された。今年は、金融庁長官の交代があり、新長官の下でどのような行政方針となるかに注目が集まっていた。果たして、内容としては特に新しい金融行政の方向性は示されず、経済、市場が年初以降コロナ禍に覆われる中で、新型コロナウィルス感染症の影響を踏まえての記述が中心となっている。


内部監査に関しては、昨事務年度においては「内部監査の高度化」が重点施策のひとつとして取り上げられていたが、本年度では残念ながら具体的な記述は消えている。昨年6月に金融庁が公表した「金融機関の内部監査の高度化に向けた現状と課題」において、内部監査が向かう方向性として「未来(フォワードルッキング)、実質(経営監査)、全体監査」を明確に示しており、新たな視点を加える必要が乏しくなったことを映したものであろう。当局の内部監査に対する期待、すなわち引き続き経営監査に向けた高度化を展望しているという点に変化はあるまい。


さて、本稿では、新型コロナウィルス感染症を受けての内部監査のあり方を考えるにあたり、本年度行政方針の中にいくつか参考になる記述があるので2点ご紹介したい。


1点目は行政方針では「的確な実態把握」として取り上げらえており、これを内部監査に置き換えれば「リスクの再評価」という観点である。今回の新型コロナは、経済活動に著しいインパクトを与えており、ほぼすべての業種に大きな影響が及んでいる。このような状況の中で、ビジネスモデルや各社の固有業務が抱えるリスク特性は大きく変容を遂げていると考えるべきであり、改めて業務の現場で起きていることを正確に把握し、その上で新型コロナによるリスクプロファイリングやリスク量の変化を識別することが内部監査においても重要である。行政方針の中でも、「的確な実態把握は 金融行政上の全ての判断の基礎となる 」としており、同様に内部監査においても経営監査に資するインサイトを提供するには、まずはモニタリングを通じて、リスクを再評価することが必要であろう。


行政方針では、「的確な実態把握」にあたり課題として、「データ戦略と分析力向上」そして「モニタリング手法」を挙げている。内部監査においては、リスク再評価をするにあたり「データ利活用」と「オフサイトモニタリングの高度化」に置きかえればよいだろう。


内部監査において、新型コロナ感染症対策で、被監査部署への実査が難しくなっており、いかに組織体内のデータを網羅的に収集し分析するかが、カギになることは言うまでもない。また、分析力は、ビジネス環境変化が経営にどのような影響を与えているかを的確に把握、評価するために従来以上に求められている。筆者の知る限りデータの収集、分析をしっかりと行う体制を構築している監査組織はまだ限られている。コロナ禍を受けてこの領域での課題を正確に認識したうえで、体制を整備することはポストコロナで有効な内部監査を実施する上で急務である。


次にモニタリング手法に関して行政方針においては「オンサイトと オフ サイト を効果的に組み合わせ、(中略)機動的かつ 先を見 通 した 実態把握を実施していく。その際には、従来のモニタリング手法に捉われることなく、リモート手法を積極的に取り入れ、実効的かつ効率的な新しいスタイルへの転換を進めていく。」としている。


この点についても、内部監査でもコロナ禍で実査が行えず、監査計画に遅れが生じており、大きな課題となっている。そもそも多くの組織で監査といえば実査であり、各社の監査手続きは、実査を中心に据えて定められており、オフサイトはあくまでオンサイトの補完的な役割に過ぎないところが多数であろう。オフサイトのみの監査では、十分なアシュアランスを提供することは難しく、監査としての有効性に疑義が生じる。そのため、ここで改めてオフサイトモニタリングの在り方を検討し、オンの役割を見直すことを早急に検討すべきであろう。


まずは、ファイルの共有やデータへのアクセス権を幅広く確保して、資料閲覧とデータ分析をより重視するとともに、リモートでの有効なインタビュー手法の開発などを行ってオフサイトで有効な監査の領域を増やしてオフサイトの質と比率を高める。一方、オンサイトはオフサイトで検証した項目の裏付けや現物でないと検証できない領域の監査に限定することとし、その比重を下げる。両者の最適な組み合わせにより効率的かつ有効な監査を実施することが可能となろう。


2点目は、行政方針においては「持続可能なビジネスモデルに関する対話」としている観点であり、内部監査で言い換えれば、経営監査に求められる「洞察提供機能の発揮」である。


各社の経営方針や計画は、先行き不透明な経済情勢や変化に直面する経営環境の下で、実現性や適切性の観点から方針や計画の修正の必要性や修正すべき事項の識別など、コロナ以前とは違った視点での監査機能の発揮が期待されている。会社によっては大幅なビジネスモデルの見直しやリストラクチャリングを迫られているケースも想定される。こうした中で、内部監査部門は経営目線でのコンサルティング機能を発揮することが期待されよう。


本邦においては、内部監査部門によるコンサルティング活動は、内部監査規程に定められていても殆ど実施されてこなかったと筆者は認識している。今回のコロナ禍のように経営に変革をつきつける事態は、ある意味で内部監査部門が独立かつ客観的な洞察を提供して、その機能を最大限発揮する好機ではなかろうか。


これらを実現するためのハードルは高いものの、内部監査態勢の高度化のための課題や論点が浮き彫りになったことを是として、早急にそれらに対応し、経営に信頼されるアドバイザーとして内部監査部門の地位の確立につながることを期待したい。

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